第1章 1
送りつづけていた視線とバッチリ目が合うと、驚いたのか咽せながらグラスをサイドテーブルに置いた。
「ふふ。ずっと起きてたよ」
「まったくもう!お嬢様は」
気管支に入ったのか、まだ咳をしている川島に大丈夫かと声をかけながら尋ねた。
「飲んでるってことは、もうマリーナに戻ってきたんでしょ?私もワイン欲しいな」
飲み過ぎではないですか、と言いながらも川島が再びグラスを手にした。
お嬢様は起きあがろうとせず、ただそれを眺めていた。
横たわったままの姿を見て意を察したのか、川島が紅い液体を口に含み、お嬢様の唇にゆっくりと寄せた。
弾力のある柔らかな唇と、形のいい少しカサついた唇が触れ合った。
唇同士が再会に喜んでいるようだった。
注ぎ込まれるワインを、お嬢様はわざと唇をずらしてこぼした。
唇の端から顎を伝い、鎖骨にまで垂れてしまった。
「ごめん、こぼしちゃった」
少しも謝っていないばかりか、要求を含んだような声色に、川島は少し躊躇してからお嬢様の鎖骨にたまった雫を舐めとった。
首筋から顎の先まで丁寧に舐めとる。
「ぁ、あ……っ」
切なげな吐息を耳にした川島が、息を塞ぐようなキスをした。
「んん…、お嬢…様」
「川島……ッ、川島…」
微かに潮の香りのする川島の髪をかき乱しながら、お嬢様は夢中で唇を擦り合わせ押しつけた。
「川島…、お花……んっ、ありがと」
唇が離れた合間合間に言うと、川島がフッと笑って唇を離した。艶を帯びた瞳と目が合う。
「どうしたんです、急に。お花は今日に限らずお邸の方でも飾っておりますが。しかも今、仰ることですか?」
せっかく良いところでしたのに、とブツブツ呟いている表情が可笑しくて、お嬢様も笑った。
「今、言いたかったの。いつも私のこと考えてくれて、くつろげるようにしてくれてありがとうって」
天窓を見上げると川島もつられて目を移した。
「窓もキレイにしてくれてるから、星もよく見えるね。だから……」