第3章 3
確かなのは、川島がお嬢様を愛しすぎるほど愛していて、本当に嫌なことは絶対に要求しないという信頼だった。
今夜は自分ばかりイッてしまった。
お嬢様はそのことが気になり、川島に最後までしないのか訊いてみた。
男性は出さないと辛いはずだから。
そうしたら川島が優しく微笑んだ。
「セックスは挿入してイクことがすべてではないですよ。愛を交(か)わす行為ですから。お嬢様が気持ちよくなってくだされば、私も同じ分だけ気持ちよくなれます」
お気遣いいただけたことは素直に嬉しいですが、と言って手の甲に軽くキスする。
──愛を交わす行為。
お嬢様はその言葉が純粋に嬉しかった。
セックスをこんな風に捉えてくれる男性が、果たしてこの世にどれほどいるだろう。
さっきの川島を、少し怖いと思ってしまったのを心の中でこっそり謝った。
ふたりで熱いシャワーを浴びて裸のままベッドにもぐりこむ。
ダウンライトの灯りと星の瞬きだけのなか、穏やかで静かな波の揺りかごに身を委ねた。
衣ずれの音と共に、しっとりした張りのある肌に抱きしめられる。
「ここがクルーザーの中なんて忘れてしまいそうですね」
「うん、今日は楽しかった。また海の上でお泊まりしようね」
「ええ。お嬢様がお休みの日に、今度はもっと遠出してみましょうか」
川島の長い脚に、お嬢様は自分の脚を絡ませた。
「すりすり、気持ちいー」
「ふふ。お嬢様は眠る前まで落ち着きがありませんね」
頭を撫でられていると安心して、うとうととしてきた。
意識が完全になくなる間ぎわ、川島が耳元で何かささやいたようだった。
「愛してる。お嬢様を攫(さら)いたい。オレの心の中に……永遠に」
ゆっくりとドアを閉めるよう静かな言葉が切れたときには、お嬢様はすでに川島の腕に包まれて深い眠りに落ちていた。
(The End)
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