第10章 閑話 : 黄瀬の思い出。
「……赤司っち、どういうことっスか?」
「……いや、僕にもわからない」
どういう訳か、ここには事務室が無かった。
それどころかさっきから職員や利用者の姿も見当たらない。
「ここは民間の体育館ではないんでしょうか?」
ポツリと呟いた黒子っちの言葉に目を見開く。
「冗談スよね?」
もし黒子っちの言う通りだとするなら、この体育館は個人のものってことっスか?
金持ちにも程があるっスよ!
「あー、めんどくせぇ」
俺たちが考えていると、突然 青峰っちが鞄とブレザーをその場に投げ捨て、つかつかと奥へ進んでいった。
「青峰っち、何してるんスか?」
俺が呼び掛けると、青峰っちはダルそうにネクタイを緩めながら
「せっかくだし、ちょっくら体動かしてくるわ」
と言って再び歩き出した。
……え?
ちょ、ちょちょ。まだ許可取ってないのに勝手に使っちゃうんスか!?
確かに俺も早くバスケしたくてうずうずしてたとこっスけど…………ぇえ!?
どんだけ暴君なんスかっ!!
「青峰っちストーーップ!」
俺の制止も虚しく、青峰っちは両手でドアを大きく開け放った。
ダンッ ダンッ
奥行きは広く、天井は驚くほど高い。
その大きすぎる空間に、人が一人だけ立っていた。
小さい身長も相まってか、その子がとてつもなく小さな存在に見える。
肩にかからない、白く短い髪に、ラフでボーイッシュな格好。
俺はてっきり男だと思っていた。
そして、その子が持っていたバスケットボールに皆の視線が集まる。
ここに来て初めて会った人が同じバスケプレイヤーなことが嬉しい。きっとこう思ったのは俺だけじゃないはず。
「すまない、ちょっと聞きたいことが……」
赤司っちが俺たちの輪から数歩前に出て、その子に声をかけた。
「……え?」
聞こえた声は鈴を鳴らしたように高く、どう考えても男の声じゃない。
体育館の中心でボールをついていたのは、小さな女の子だった。