第10章 閑話 : 黄瀬の思い出。
ボールをつくのを止め、こちらを振り返った女の子に実際、本当に呼吸を忘れた。
澄んだ大きな瞳。白い肌に映える桃色の唇。
日本人離れしたその姿から視線を逸らせない。
目は自然と見開かれ、ドクンと大きく心臓が脈を打つ。
全身の血液が熱を帯び、目まぐるしく身体中を駆け巡る。
一目惚れなんて、信じてなかった。
そんな一瞬で恋に落ちれるわけがないと、高を括ってた。
なのに、これはどんな冗談スか。
「あの……、何か用でしょうか?」
不思議そうに首を傾げる仕草に、キュッと胸が締め付けられる。
彼女の大きな瞳が赤司っちを映しているのかと思うと、赤司っちが羨ましくて仕方ない。
「実は、僕たちの学校の体育館が暫く使えなくなってね。代わりの練習場所を探していたところなんだ」
「ここを使わせて欲しいと思ったのだが、職員が見当たらないのだよ」
赤司っちと緑間っちがが事情を説明すると、女の子はきらきらと目を輝かせた。
「皆さんは何のスポーツをやられるのですか?」
どことなく気品を感じさせるしゃべり方で、俺たちに期待の眼差しを寄越す。
あぁ、さっきから彼女の一挙一動にうるさいくらい心臓が高鳴る。
まさか俺……。
「これだよ」
青峰っちが女の子の細い腕からバスケットボールを取り上げると、彼女は心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
俺はそれを直視出来なくてうつむく。
……なんか、今の俺すっげーダサいっス。
「バスケ…!なら、私と勝負しましょう!!もし私に勝てたら、ここをいくらでも使わせてあげますよ」
そんな俺に気づくこともなく、楽しそうに手を合わせた彼女は、とんでもないことを言い出した。