第10章 閑話 : 黄瀬の思い出。
Side~黄瀬 涼太~
ひなっちは軽々とその場でバック宙を決めた。
白く艶やかな髪が、照明の光を受けて生糸のように輝き、まるで俺を誘うかのようにサラサラと揺れた。
ひなっちのことを知らない人たちは驚いて目を見開いている。
更に数回その場で跳ねた彼女は、その顔に挑戦的な笑みを浮かべた。
ひどく既視感を覚えた。
どこかで、この光景を見たことがある。
数秒間うつむいて頭を捻った俺は、あぁ…あれか と視線を上げた。
俺たちが初めてひなっちと会ったとき。
俺が、恋心を抱いたあの時と、この場面はよく似ていた。
変わったのは相手が俺じゃないのと、ひなっちの髪型がショートじゃなくなったことくらい。
試合開始のホイッスルが鳴る。
それを小耳に挟みながら、俺はあの時のことを思い出していた。