第7章 強くなんか、ないよ。
今更、約束が嫌だなんて泣き言は言わない。
だから
今だけは……
家のなかでも一際豪華な扉をノックする。
「お父様、ひなこです」
そう言うと、“入れ ”という小さな声だけが返ってきた。
「失礼します」
私はお父様の書斎の扉を開けた。
ずらりと並んだ本は、威圧感がある。
「どうかしたのか」
今日も相変わらず忙しそうなお父様は私の顔も見ずに尋ねた。
まぁ、いつも通りのことだけれど。
「お父様」
私ももう大人だから、約束を破るなんてことはしないよ。
でもね、
だから、
今だけは
「今度の土曜日は大事な用事があるので、習い事や予定は全部キャンセルしといてくださいね?」
少しのわがままぐらい許してよ、ね。