第5章 スルメとバスケ
私はこう見えてスルメが大好き。
三度の飯より。
世界三大珍味より。
この世から食べ物が消えても、スルメさえあれば生きていける自信がある。
スルメとバスケだけは、他のものと替えがきかない。
誰にも譲れないほどに大好き。
そういえば、
初めてスルメを知ったのは中学時代、キセキのみんなとコンビニに寄った時だったな………
――――――…
今まで高級なものしか口にしてこなかった私にとって、初めて食べたスルメはとても衝撃的で
『ナニコレ!!美味しい……』
『えっ?ひなっち、スルメ知らないんスか!?』
『スルメっていうんだ……私、これ今まで食べたものの中で一番好きかも!!』
『スルメが一番なんて、変わった奴なのだよ』
『ん~…スルメもおいしいけど、やっぱりまいう棒かな~』
『誰もお前の好みなど聞いていないのだよ!!』
『すいません!この店にあるスルメとやら、全部ください!』
『はっ!?全部!!?ひな、お前正気か?』
『さすが、お金持ちのやることはスケールが違いますね』
『そうだね。でもひなこ、買い占めは他のお客さんに迷惑がかかるからやめようか』
『……………』
『返事は?』
『……征十郎くんの意地悪』
『何?』
『…………わかった。じゃあこの店にスルメを提供してる業者から大量に取り寄せることにする』
『……スケールが違いますね』
―――――…
「フフッ」
思い出して、思わず笑ってしまう。
彼らとの思い出は、楽しいものばかり。
「あ~あ……ダメだなぁ」
会えないのに、もう会いたいと思ってる。
私は、机の上に置いた写真たてを手に取った。
私がみんなに内緒でアメリカに飛び立つ、二週間前に撮った写真。
キセキのみんなとさつきちゃん、それから私。
みんな、笑ってる。
この頃には戻れないの、知ってるから。
戻れないようにしたのは私自身。
みんなのことなんて考えずに、一人で逃げたのは私。
「大丈夫。私はバスケさえ出来れば良いんだもん。みんなに会えなくても、全然問題ない」
小さな私の呟きが、ひとりぼっちの部屋に虚しく響いた。