第5章 スルメとバスケ
ルーベルマリア学院の一角、真新しいバスケ部専用の練習場で
「みててよ、ひなこ」
アインちゃんは得意気に笑ってみせた。
放課後、できたばかりのルーベルマリアバスケ部の腕前を見るためにここへ来た。
どうやら私の親友は、新設バスケ部に相当の自信を持っているらしい。
アインちゃんの目利きはなかなかのもの。
さすが、私にバスケの良さを教えた張本人なだけある。
そのアインちゃんが自信満々なのだから、かなりの手練れが集まったんだと思う。
「お手並み拝見といきますか~」
「ひなこ……あんまり脅かさないでくれる?」
じっとみつめていたら、注意された。
「心外だよ!ただ真剣に見てただけじゃん!!」
「…………ハァ」
アインちゃんはひとつ、大きなため息をついて
「……知ってる?」
静かに口を開いた。
「バスケの時のアンタ、人が変わるよ」
…………………
……………
「なに言ってるの?」
いまいち意味がわからなくて聞き返した。
「目が冷たくなる。鋭くなるっていった方がいいかな?」
………………そうなのかな?
自分では全然自覚なし。
「気付いてないならそれでいいんじゃない?バスケに対してはシビアな所も、フェアリーの魅力でしょ」
フェアリー
久しぶりに聞いた響きに思わず苦笑が漏れる。
「やめてよ、その呼び方」
笑いながら言った私を真剣にみつめながら、
「悪い?昔はいつもそう言われてたじゃない」
嘲笑った私を責めるような口調でアインちゃんは言った。
確かにフェアリーは私の愛称だった。
昔の話だけども。
自嘲気味に笑ってから、
「私は、もうフェアリーじゃないから」
ぽつりと、それでいてしっかりと言葉を落とす。
「………そう」
そんな私を見て、アインちゃんはなにか言いたげだったけれど、結局なにも言わずに練習に戻っていった。