第3章 自分の娘のような
その頃
1人残された小豆長光はやれやれと立ち上がろうとした。
「さんちょうもう!ばあ!」
聞き慣れた幼い声がする。
ばあという声と共に幼い声の正体が顔を出した。
「え?」
「あれ?さんちょうもうは?」
幼子はキョロキョロと部屋を見回す。
その山鳥毛の上着を引きずり、マジックペンで落書きしたのか目の下にはなにかの模様。
首にもぐちゃりと何かが書かれている。
そして、小豆長光が笑ってしまったのは小さなサングラスをかけていた。
「山鳥毛なら、君を探しに行ってしまったよ?
どこに行ってたんだい?」
「さんちょうもうのコートがあったから、おかおのかいてたの。」
「どこで?」
「パパのへや!」
「そうか。とても、よく…似合ってるよ。
山鳥毛かと思ったよ。」
小豆長光は笑いを堪えていた。
みんなが必死になって探している中、当の本人は大好きな大人の真似を一生懸命していたのだと思うと可笑しくて仕方なかった。