第12章 君を想うがため
山鳥毛がやってくると言う場所に時間通りにむかうと
既に山鳥毛がそこにいた。
「山鳥毛…」
声をかけると山鳥毛は私を見て変わらない笑顔で微笑む。
あぁ、その笑顔がずるいよ…。
離れたくないって思っちゃうよ。
「雛鳥…息災か?」
「いつもそれ聞くよね。」
あまり、顔を出せなくなってから山鳥毛は会う度にこれを聞いてくる。
「まぁ元気…だけどね。
ありがとう。会いに来てくれて。」
「あぁ…。」
私と彼の間に沈黙が流れる。
「雛鳥はいくつになったんだい?」
「15だよ。少ししたら16になるかな。」
「そうか、早いものだな。」
「うん。みんな言ってるね。」
「赤子の頃から皆、君を見守ってきたから。」
私たちはベンチに座り桜並木道を眺める。
「もう、巣立ってしまうんだな。」
「巣立たされたの間違いだと思う。」
私が頬をプクッと膨らますと山鳥毛はクスリと笑った。
「ハハハ、そう憤ることもない。
春は、別れの季節でもある。そういうことだろう?」
その途端ひゅうっと冷たい風が吹いた。
「春なのに夜は冷えるなぁ。
薄手のコート、置いてきちゃった…。」
「雛鳥…寒いのかい?」
「ちょっとね。肌寒いかな?」
山鳥毛は一言、失礼と言い私の肩に手を乗せ体を引き寄せた。
「わ…!」
山鳥毛はコートから腕を抜き体を密着させてコートの半分で私ごと包む。
あのお香の香りが鼻をくすぐった。
染み付いた優しい匂い。
男性が着けるような香水よりも素敵な匂い。
私の大好きな人の匂い。
「これなら、寒くないだろう?」
「…ありがとう。」
山鳥毛の体温が私に伝わる。
温かい…。
この温かさが懐かしくて涙が出そうになる。
やっぱりサヨナラなんてしたくない。
叶わない恋でもいいから想い続けていたいよ。
でも、私の身をみんなが案じてる。
仕方ないことなんだよね…。
私は自分のポケットに入れてたお守りをこっそりと山鳥毛のコートのポケットに入れた。
どうか気づかないで欲しいと思いながら。