第10章 その香りが思い出となる
雛鳥は鞄にそれを入れるとまた、本の続きを読み出した。
「ん?」
半身に重みを感じる。
雛鳥が本を読みながら、寄りかかってきた。
「この体勢が楽だから。嫌だったら言ってね?
すぐ退くから。」
「あぁ、問題ない。」
私はこの何でもない時間を幸福と感じていた。
雛鳥は定期的に私から香をもらいにやって来た。
「小鳥に預けた方がいいかい?
それかもう少し本数を増やすか。」
手を煩わせるだろうと思い提案したが、雛鳥は首を横に振った。
「いいの。この本数で私がもらいに来るの。」
「雛鳥がいいならいいんだが。」
「うん。ありがとう。ねぇ…」
「ん?」
「ちょっと、しゃ〜がんで」
何かを誤魔化すようににぃっと笑う。
私は言われた通りしゃがんでみる。
雛鳥は両手を広げて私を抱きしめた。
「お香の匂いもすごく好きだけど、山鳥毛から香る匂い好きなんだ。」
私は瞬時迷った。
抱きしめたいが相手は雛鳥…
小鳥の大切な愛娘。