第10章 その香りが思い出となる
成長は喜ばしいが同時に寂しくもあるな。
「山鳥毛…」
「どうしたんだい?」
「私、この香り好き。」
「そうか。」
「山鳥毛みたいに、暖かくて優しい匂いがする。」
「私の香りと言うのかい?」
「そう。そうだね。」
雛鳥は鞄から本を取り出しそれを読み進めた。
「何を読んでいるんだい?」
「妖怪や怪異?の事件を解決する新聞記者の話。
面白いんだよ。」
雛鳥はそう言い読みかけのところから読書を始めた。
私と小鳥の間に静かなゆったりとした時間が流れる。
いつも、ドタドタしていたのが懐かしい。
しかしこれも悪くない。
「山鳥毛…すごいわがまま言ってもいい?」
「ん?」
「このお香、ちょっとほしい。
1人でいる時に寂しかったらこれ焚いて本読みたい。」
「なんだ、そんなことなら問題ない。
何本にする?1箱にしようか?」
「1箱はいい。そんなにあったら山鳥毛に会いに来る理由が無くなっちゃう。」
「ん?」
「なんでもない。とりあえず5本にする。」
「分かった。」
ちり紙で香を包み、雛鳥に渡す。