第10章 その香りが思い出となる
この両手をどうするべきかと思っていたら、小鳥が執務室から顔を出す。
小鳥はにやりと口角を上げて頷いた。
今は許されるのか…?
私はふと、数年前の小鳥の言葉を思い出す。
いつか自分から離れるだろう
好かれているうちに応えればいい。
私はその両腕で小鳥を包み抱擁した。
雛鳥から愛用の香の匂いを感じる。
雛鳥が何故こんなことをするか分からないが…
いや、今の私は分かろうとしないようにしていたのかもしれない。
付喪神、刀の化身が小さな少女にこんな重い感情を押し付ける訳にはいかない。
ましてや当主の…
こんなにも愛おしいのに、触れてしまえば離れがたくなるのに。