第10章 その香りが思い出となる
雛鳥はもう小学3年生になったと聞く。
本当にあっという間だ。
そんな雛鳥が久しぶりに本丸へやってくる日のこと。
「…山鳥毛?」
「雛鳥か、久しいな。息災か?」
「うん…久しぶりだね。元気だったよ。
山鳥毛も変わらずだね。」
「あぁ。」
雛鳥は部屋に入ると不思議そうにキョロキョロした。
「?どうかしたのかい?」
「ここの部屋、なんかいい匂いする。」
「あぁ、そうか。
雛鳥は初めてだったな。香を焚いているんだ。」
「香?」
私は目の前のお香を指差す。
雛鳥はそれを初めて目にした。
「線香?」
「まぁ、そんなところかな?
火を使っているから気をつけなさい。」
雛鳥は私の隣に座り机の上にある、香から出る煙を眺めていた。
「線香ってさ、なんか寂しいものだと思っていたんだよね。ご先祖さまや死んじゃったおじいちゃんたちに上げるから。
でもこれはなんか違うね。なんて言うか…落ち着く?寂しくない香り。いつもの線香と違うからかな?」
「そうかもしれないな。」
「山鳥毛はこの香りが好きなの?」
「そうだなぁ…実は雛鳥が生まれる前は使っていたんだ。
小鳥が子に火の元は危ないから。としばらく使ってなかった。」
「私のせい?」
雛鳥は申し訳なさそうに眉をひそめた。
「いや、そんなことは無い。
むしろ、香より素晴らしいものをたくさん経験させてもらってるからな。
香が必要な時間があまりなかったんだ。
雛鳥が学校に行ってから暇を持て余してきてたから久しぶりに焚いてみようと思っただけさ。」
「そっか。」
雛鳥はほっとしたように微笑んだ。
幼き頃より大分、背が伸び落ち着きも出てくる。
故に、私の香にもこうして向き合うとは。