第5章 交差
「冗談ですよ、みなみさん」
丁度レインボーブリッジに入り、少し開いてる窓から入る心地良い風が、焦りから来る冷汗を引かせてくれる様で。
『もー…安室さん!』
ヒヤヒヤしてる私と対照的に子供のように笑ってる安室さん。
鎌をかけられたって訳ね…
「ごめんなさいみなみさん」
まだ笑ってるし…
けど、安室さんにはさっきの様な顔じゃなく、笑顔の方が似合ってるから
まあ、いっか。
それに安室さんには私の正体がバレても良いと思って今日来てるしね。
『良いですよ。安室さんの笑顔が見れて良かった』
明らかに焦りを見せたみなみさん。あの住所が嘘なのは確定だ。
「でも、僕は今日みなみさんと日が暮れるまで一緒に居たいと思っていて…女性が夜一人で歩くのは危険ですよ?それとも…迎えに来てくれる誰かが居るのなら、話は別ですが…」
怪しまれてるのに、ここから後何時間も安室さんと一緒にいれるのが何故か凄く嬉しかった。
『そんな人は居ないです…! 確かに、そうですね…』
「ええ」
それっぽいアパートの場所を調べてその近くで降ろして貰えば良いかな?
それとも、帰る時には自分の事を安室さんに話しているかもしれないから…
たとえ信じて貰えなくてもそっちの方が楽かも。
ただ話すタイミングって案外無い…
『じゃあ、帰り道に案内しますね』
「お願いしますね」
隠してる事を安室さんにも話してしまえば良いって考えるとさっきまでの嫌な緊張感は和らいでくれて、今では窓から見える景色にはしゃいでる。
『私、久々にこの景色見ました〜!港区の景色も好きなんですよね』
「そうでしたか!またみなみさんの喜ぶ姿が見れて僕も嬉しいです」
そのままブリッジを通り抜け海浜公園の駐車場へ停車させ、車の外へ。
『運転お疲れ様でした』
「ありがとうございます。あ、あちらに喫煙所がありますよ?」
『え、私が喫煙者なのを御存知だったのですか?』
「みなみさんからふわりと煙草の匂いがしたので、もしかしたらと思い…当たりでしたね」
『それは…!失礼しました…』
匂いを消したつもりだったけど、ホテルでも良く吸ってるから難しいよね
けど少し恥ずかしい様な、なんというか…
「お気になさらず、みなみさんからは良い香りがしますよ」