第24章 その先に待っているもの
『あっ…すみません…』
顔を上げると、眼鏡を掛けた長身でジャケット姿の男性にぶつかっていた。
そこそこの勢いでぶつかったというのに、この一瞬だけで眼鏡の男性に両手で肩を抑える様に支えられていた。
「いえ、私は大丈夫ですが…どうやら貴女はそうでは無いみたいですね」
安室さんが来るまでここで立ち止まっている訳にはいかないけど
この人に助けを求めるのも無しでは無い気がした。
『あのっ…ずっと知らない人に追われててっ…!』
焦りと混乱で正常な判断が出来ていないのかもしれない。
だけど気付いた時には口に出ていた。
半泣きの人間に突然そんな事言われたらこの人だって不審に思うに決まっているのに。
「追われている?成程、それで貴女は走ってこの路地に入ってきたのですね。ですが…」
そう言いながら少し不思議そうに私の背後を見渡す男性。
「その“追ってきている”という男性は何処にも見当たりませんね」
『えっ?でも、さっきまでこの路地に…足音が…』
「その足跡というのは、もしかして他の人かもしれないですね」
不思議そうにこちらを見る通行人の事を指すようにそう言われた。
恐る恐る後ろを振り向くと人影も無ければこちらに向かってくる足音も消えていた。
『嘘、居なくなってる…っ』
この状況に途端に安心してしまい、今も支えられている肩と足から力が抜けていくのを感じる。
「おっと」
走ってきた疲労と力が抜けたせいでその場にしゃがみ込みそうな所をまた支えられた。
『すみません…』
今度は両腕をしっかりと支えられ、ぶつかった衝撃で落ちたスマホも取ってもらった。
安室さんとの通話は切れてしまっていた。
「いえ、気になさらず。どうやらかなり大変だった様なので、貴女の気が済むまで」
『すみません…ありがとうございます』