第21章 お咎め
視界に入ってきたその小さなビルに誘われる様に歩いていると、人一人も居ないはずのこの場所に背後から足音が聞こえてきて。
こんな場所で何かをされたら…
きっと助けを呼んでも誰も居ないだろうし直ぐには来れないだろう。
そう考えると途端に心臓がうるさい程音を立てる様に鳴り始めた。
本能が逃げろと自分に指令してきている
けど、ここから逃げるとしたら来た道を走る以外に無かった。
でも後ろから誰かが来ている訳で。
こうなったらひたすら走って撒くしかない。
こんな場所でそれをやっても無意味なのに、今の自分にはそれしか思い浮かばなくて気付けば走り出していた。
怖くて後ろを振り向く事が出来ない。
だけど自分が走り出した瞬間、後ろの足音も早まった事だけは理解出来た。
あの小さなビルまで後少し
息を切らせながらビルの裏側まで辿り着くと次第に背後の足音も消えた。
音を立てない様に、壊れた扉からそっとビルの1階へ入る。
中はあの頃とは特に変わっていなかった。
床に落ちている枝や葉は、避けようにも避けられないぐらいには散っていて
湿った土の上を歩いてきたせいで、靴の裏に残る柔らかい土が葉を踏む度に滑りそうになる。
あの頃は必死で此処を探る事が出来なかった。折角ここまで来たのだから今日はここを探ろう。
早速目に映るのは棚にいくつか入ったファイル達。
「ホォー」
『えっ?!』
『あ、赤井さん?!』
ここにはもう自分以外いないと思っていたのに、まさかの声に驚いて心臓が止まるかと思った…
「散歩にしてはやけに逸れた場所だな」
入口付近に立つ赤井さんが目の前まで歩いてくる。
一応沖矢さんの姿だけどこんな場所じゃ他には誰も居ないだろうからきっと大丈夫。
『あの、もしかしてさっきの足音って…』
「ああ、俺だ」
『もう!どうして…!そうならそうと早く言ってくださいよ!本当にびっくりしたんですから』
「すまんな、お前を驚かせようと思っていたんだが、まさかこんな所まで来ていたとはな」
『ええ、まあ、それは…』
「ここが例の場所なのか」
辺りを見渡す赤井さん。
にしても、あれが赤井さんだったとは……
でも取り敢えずはこれで安心だ
そう思っていたのに……