第21章 お咎め
『あ、渡ります…安室さんは何をしていたんですか?』
恥ずかしいぐらいに動揺しながらも思いついた言葉がこれだった。
何をしていたかなんてそんなの…零が手に持っている袋を見れば分かる筈なのに
「僕は買い出しに行っていましたよ。みなみさんは…どうやら頑張っているみたいですね」
信号を渡切り、来た道を歩きながら必死に会話をしようと頭を回している。
『あー…まあ、社会復帰…みたいな?今終わった所なんです』
「そうでしたか。よく頑張りましたね、お疲れ様でした。ならさっき見かけたのはやっぱりみなみさんだったんですね」
『さっき?』
「はい、店内から見えましたよ。通行人に紛れているようであまり確認は出来ませんでしたが」
『あはは…』
やっぱりバレていたのか…
何だかそれも恥ずかしくて愛想笑いになってしまった
「僕の事を避けているのですか?」
『えっ?い、いや!』
咄嗟の質問にあからさまな反応しか出なかった
まあ分かり易すぎる態度だから仕方ないものの、やっぱり何でも見透かされているのだと
「そうですか…それなら良いのですが」
少しの沈黙すらも勝手に気まずくなってしまって、気付けばバッグのハンドルを強く握っている掌には汗がじんわりと出ている
零の事は嫌いでも何でもない。
寧ろ…いや、零には感謝をしている
だけど、ポアロの小さな看板が視界に入った今では早くポアロに着いて欲しいという気持ちでいっぱいだった
「僕は今日会えて良かったです」
「みなみさんがこうして復帰した姿を見れたので」
漸く着いたポアロの前で足を止める。
『私もです、正直驚いたけど…話せて良かった』
「みなみさんも頑張っているんですね。僕はいつだってみなみさんの力になりますよ。困った時は言ってくださいね、深い友人として」
最後に足された言葉に、どこか胸の辺りがチクリと痛んだのは事実。
だけど私達は抑恋人同士だった訳でも無い。
あの時話した事だって、お互いに前向きな形で終わったし。
私には赤井さんが居るというのに、いざ零にこう言われて胸が痛む自分が憎くもあった。