第3章 初めまして
30階にある部屋のベランダから夜の米花町を眺めながら吸う煙草の味は
今までとは違う深さがあった。
まるで夢でも見ているかのようで
だけどこの煙草を吸うと脳裏に過ぎるのは現実世界での記憶で。
これがもしもほんとうに夢なのだとしたらいつかは覚めてしまうのだろうか
正直覚めないで欲しい。
来たばかりのこの世界だけど、あの頃みたいな精神的苦痛も無ければ朝だってスッキリ目覚める事もできる。
ここが天国なのだとしたら…。
自分で言うのはなんだけど現実世界ではしなくても良い苦労ばかりしてきた。
それでも頑張って生きてきて、報われない事ばかりで、立ち直れたと思うとまた直ぐに地獄の様な感覚に陥った。
向こうに救いなんてものは無かった
自分で自分を愛す事ですら難しかった。
それがこの世界に来たら
めまぐるしく起こる出来事に疲れる事もあるけど、苦痛だなんて微塵も思わない。
もしも本当にこの世界の住人になれたのなら
私はここで第二の人生を歩みたい。
なんて事を夜の米花町を上から眺めながら煙草を吸っていると
部屋にディナーが届いた。
食事を終えてシャワーを浴び、ベッドの上に横になる。
横に沖矢さんが居てくれたらなあ…
あの数時間の出来事だけで自分でも気付かないうちにかなり沖矢さんの虜になってしまっていた。
きっと沖矢さんは私に対しては怪しい人間としか思われてないんだろうな
それでも良い。
この先何があるかは分からないし
まだまだ画面でしか見た事のない人達に会えるかもしれない楽しみが出来た