第19章 悪夢からの解放
『今日って…』
「勿論みなみさんを送り届けるよ」
『…ありがとう』
零の提案を断るのは正直心が痛む部分があるし、申し訳ない気持ちがある
だけど赤井さんにも会いたくて。
少し視線を斜め下に落とす零。
『零…』
「ん?」
名前を呼びかけると、透き通る様な青い瞳はどこか儚げでもあって。
『その、ありがとう…』
「良いんだ」
『でも、もし…駄目そうだったら…お願いしても良い?』
「ああ、勿論さ」
一瞬、綺麗な瞳は大きく開いて、直ぐに戻り小さく微笑む零。
零の提案を受けるという事は、つまりそういう事であって。
何を今更という感じでもあるけど。
私には世界中どこを探してもあんなに素敵な人は居ないと思える程の相手が居るのに、それなのに…
また次があると言う事を匂わすような言動を取ってしまって。
それは零に対して罪悪感や申し訳無さから来るものというよりかは
傍から見れば汚いと言われる様な感情であって。
それに気付いたのはいつからだろう。
こんな事、赤井さんに知られる訳にも話す訳にもいかない
最低なのは分かっている
ただ、もし零が居なかったら私は今もあの潜水艦の中に居たのかな。
「みなみさん、大丈夫か?」
『え?う、うん…』
分かっているさ、みなみさんの考えている事ぐらい全て。
ただ、それなのにみなみさんを諦める事ができない
相手が赤井だからか?いや、確かに最初はそうだったが今はもう違う。
例えこの先一緒に居れない未来だとしても。
静かな時間の経過を感じていると、零のスマホが光る
「ごめん みなみさん」
そう言って、窓の方へ移動して電話に出る零
電話の相手は…風見さんかな
何度かそう聞こえた気がする。
私は戻れて平和になれたけど、零はそうじゃないもんね…
「みなみさん、ごめん。少し用が出来たんだ」
『うん、大丈夫だよ』
何か言いたげに見つめる零と今私が思っている事は同じだと信じて。
『ここで待ってても良い?』
「っ…でも」
『ここなら安心なんでしょ?待ってるね』
一瞬驚いた様子だけど、どこか嬉しそうに黒のロングコートに腕を通す零。
それがまた私も嬉しかった
「成る可く直ぐに戻るよ」
そう言って、唇にそっと触れるようなキスをして部屋を出ていった