第18章 悪夢
「そいつぁ面白ぇじゃねえか。お前は迷い込んだ世界で元へ戻る方法を探る、俺はアイツを出し抜いて上へ上がる。どうだ、お互いウィンウィンじゃねえか」
『……』
彼の言う“探る方法”と言うのはきっともっと上の立場の人間に渡されて色々実験されると言う事だろう。
そんなの……
『い、嫌……』
「うるせえな」
抑える彼の手が更に重圧感を増して。
今にも骨が折れそうな気がして、目から暖かい雫が溢れては横に流れていく
もう嫌……
助けて…赤井さん……
「ちょっとピンガ!」
「あ?」
「彼女は拐うだけの筈よ。何も殺す必要は無いわ」
ドアが開き、その女性の声に寄って彼が漸く離れる。
「殺すつもりなんか無えよ、ただこいつで遊んでただけだよ」
「貴方、そろそろ戻らなくていいの?」
「んぁ?……ったく」
そう言って、彼は部屋から出ていき、女性がドアを閉めて入ってきた。
直ぐに起き上がりたいけど、拘束もあるし痛くて動けなくて。
「……大丈夫?」
顔を覗き込ませたのは、あの水無怜奈で。
彼女はCIAからの潜入捜査官だし、途端に安堵の気持ちで満たされる。
『……はい』
彼女の手によって何とか起き上がる事が出来た。
「良い?その拘束は直ぐに外れる様にしてあるわ。だから…」
「おい、キール 来い」
またドアが開き、そこに立っているのはウォッカで。
「そこで大人しくしてなさいね」
呼ばれた彼女は部屋を出ていってしまった。
“だから”の続きは何を言おうとしたんだろう。
こんな状況でも、彼女がこの部屋へ来てくれた事への安心感が少しでも今の地獄の様な感情を救ってくれた。
だけど一人に戻ると途端に恐怖や不安に苛まれて。
正直、もう本当にここから出る事は出来ないのじゃないか、誰も来ないかもしれない。そんな気持ちが頭をグルグル駆け回り
今はただ泣く事しか出来なく、やっぱりこの世界に来たのは間違いだったと思えてきて。