第13章 過去には
パニックか。
混乱すると言うのは、さっきの俺も少々そうだったが
こいつの場合は別な筈だ。過去の話を聞いた上で、あんな場所でパニックに陥ったら怯えても無理は無い。
だが本当にそれだけなのか?
あの場に彼が居たのも理解出来んな。
「みなみ、俺を見ろ」
『ん…』
「本当にそれだけか?」
『はい…』
声を詰まらせ、目から涙を溢れさせているみなみの顔は愛々しさもあり唆るものもあるが、こいつは今嘘をついているだろう。
ましてやみなみの事だ。
そのくらいは直ぐに分かる。
「まあ今は良い。落ち着いたら話してくれ」
精神的な問題なら俺がみなみの傍についてる。ずっと支えるつもりだが、組織の仕業だとすれば少々話は別になる。
奴らが使うような小型の盗聴器等は、さっき確認した時みなみには付いてはいなかったが。
沖矢の状態でも下手に動けば怪しまれる可能性はある
そうでない事を祈りたいとこだが。
『はい…』
視線を逸らし、何か考え事をしている赤井さん。
もう嘘だとバレているのかな。それに零も居たし…
あれは本当に偶然だとして、ベルモットとの事はやっぱり勘づかれたくない。
ただでさえあの組織から命からがら抜け出して今の生活があるというのに
沖矢昴の存在まで怪しまれて欲しくない。
素直に話せば何かしらの対応はして貰えるのだろうけど、何時どこで見られているかも分からなくて。
『赤井さん…?』
涙も引いて、赤井さんの名前を呼ぶとこっちを見てくれて。
『あの、今日は本当に…すみません。もう、大丈夫ですよ』
「みなみ、良いか。前にも言ったがお前には俺が着いている。もう以前とは違うんだ、分かるか?」
『は、はい…』
視線が戻れば、優しい表情に変わって頭を撫でながらそう言ってくれて。
いつもポーカーフェイスな赤井さんだけど、ちょっとした表情にも気付けるのは長年好きだった過去のお陰でもあるのかも。
今は目の前でこんなに優しくて、強くて、かっこいい言葉をかけてくれる赤井さんは、その辺に居る様な口だけの男なんかとは違い
しっかり行動で示してくれる安心感がまた信頼に繋がって、大きな愛情がまた産まれて。
だけど自分はそんな赤井さんを裏切る様な行動を取っていて。