第13章 過去には
あの赤井が沖矢昴とやらに変装しないままやって来るとは。
みなみさんが居なくて、連絡も付かずに相当焦っていたのだろう
赤井に抱き寄せられながら歩くみなみさんの後ろ姿は気付けば見えなくなり。
あのまま奪い去ってやれば良かった。が、赤井が来た時
僕がみなみさんに着いていた時よりもあいつなんかに心を許している様にも見えて、それが余計に気に食わない。
だけど一体何故みなみさんがあんな場所で?
道に迷った?そんなのは一瞬で嘘だと分かった。
冷蔵品の買い物袋を持ったまま、ましてや此処はポアロからも近い。
迷ってあそこまで号泣するのは只事で無い事は確かだ。
考えたくは無いが、どうしても思い浮かんでしまうのはベルモットの存在。
まさかみなみさんの存在が知られたのか?
いつだ、僕と一緒にいる所を彼女が見たのか、それとも…
老若認証のカメラか?
だとすればみなみさんが僕と居るのは余計危険に晒してしまう。
僕が唯一、心を許せて束の間の癒しの時間を過ごせるみなみさんと会えなくなるのは耐えられない。
・
赤井さんに腰を抱かれたまま路地を出ると、明るい日差しが射し込む。
ここまで一言も話さずに近くに止めてあった車に乗る。
『赤井さん…』
「なんだ」
『ごめんなさい』
「詳しい話は後で聞くとしよう」
車に乗り込み、開口一番に浴びせられるのは
弱った声の謝罪か。
まさかと思ったあの路地にみなみと彼が居るとは正直思わなかったが
安室君もみなみが何故こうなっているのか分かっていないのだろう。
一体何があったんだ?
ポアロに行っていなかった事には安堵するとしよう。
だが…
安室君、君がまたみなみに着いているとはな。
彼は俺から大事なものを奪いたいのではなく、どうやら本当にみなみを気に入った様だな。
それだけは絶対にさせん。
横で何かに怯えているかのようなみなみを見る限り
最悪な状況を想像する。