第13章 過去には
赤井さん…どうして…
外だと言うのに声は沖矢昴では無くて
肩に回されていた腕と掴んでいた手が離れ、零が立ち上がる。
落ち着いてきた涙を急いで拭い、今更遅いけれど少しでも平然を装う。
「赤井…お前!」
「久しぶりだな、安室君」
「どうしてここに居る。何をしに来たんだ」
「それは君に関係無いだろう。だがみなみを見てくれていた様だな、感謝するよ、安室君」
『ごめんなさい 私道に迷っちゃって、それで…』
袋を持ち成る可く視線を合わせないように話す。
「付き合っていると言うのに彼女を、ましてやこんな場所で一人で泣いているというのに今の今まで放置ですか。果たしてそれが本当に“そう”言えるのか」
『携帯の充電切れちゃってて、それに此処は私が知らない場所がまだまだあるので…つい不安になってしまって』
なんて、頭が切れる二人に如何にもな嘘をついた所で
きっと既に見破られているに決まってる。
だけど…この場を乗り切るにはそれしか無いように思えて。
「すまんが安室君、こちらにはこちらの事情という物があるんだ。あまり首を突っ込まないでくれるか」
腕を掴まれ、引き寄せられる様に零の隣から赤井さんの隣に移り
両手に持っていた袋二つを軽々しく片手で持ち、腰を抱き寄せられる。
「だったら、もっとみなみさんの傍に着いていたらどうだ。まあ、今の貴方じゃ無理でしょうね」
「言った筈だ、安室君。あまり首を突っ込むなと」
変装をしていない赤井さんと零が話す所は初めてで。
やっぱり険悪な空気が凄い…
『あ、あの、本当に大丈夫なので…安室さんも、ありがとうございます』
赤井さんを睨みつけていた零の表情が途端に和らぎ、元に戻る。
「それじゃあ、ここで失礼するよ」
『本当に、ありがとうございました』
「…気をつけて、みなみさん」
そうして、赤井さんに腰を抱かれながら路地の反対方向へ歩き出す。
後ろを振り返りたいけど、そんな事は出来ず…