第13章 過去には
『指紋?そんなの、いつの間に…まさか、あの時!』
あの時、ポアロで初めて会ったとされる毛利さんがベルモットだったと。
だから毛利さんは私を知らなくて当然な訳だ…
「ご名答。あれから貴女に会うまで苦労したのよ?貴女の偽の戸籍はあっても指紋は登録されていない。それってつまり」
『別の場所から来たと』
「そうよ。一体どういう事なのかしら?」
『それは!それは…私も分からないんです』
「本当みたいね」
もう…この際仕方ない。
これ以上は誤魔化しきれないし、既に“そうです”と認めているようなもの。
『そうです』
「そう…貴女の様な人間はボスが気に入るわ?」
『ボスって…というより、どうして貴女は自身の顔を見せる事で私が気付くと思ったのですか?』
「それは、貴女が私の予想通りの人間だと思っていたからよ。まあ、こんな事言うのは馬鹿げているけど別世界から来たならこの世界について知っているんじゃないの?」
『なるほど。だけど…途中までしか知りません』
「信用するとでも?貴女の存在は組織にとって、かなり需要があるわ」
『い、嫌です…』
眉をピクリと動かしたベルモットが、また一歩こちらへ踏み出そうとした時に彼女のスマホが鳴り始める。
逃げるチャンスは今しか無いと思ったけれど、スマホを耳に当てながら片腕を上半身に回され、逃げられない様に抑えられる。
通話の声は聞こえないけど、彼女の反応からしてきっと行かなければならないのだろう。
「はあ。まあいいわ、今日の所はこれで逃がしてあげる」
通話は直ぐに終わり、回された腕は解かれ、体が開放される。
「だけど、この事を他に漏らせば貴女の大事な人達がどうなるかは…分かっているわよね?」
『…そんな』
「今ここで貴女を殺さないだけ良いと思いなさい?まあ、貴女は生きたまま組織へ持っていくのが一番だけど。私は個人的に貴女に興味を持ったわ?仔猫ちゃん」
『あ、貴女の期待には…応えられません』
「どうかしら。別の世界から来た人間なんて貴女ぐらいしか居ないわ?そして、貴女の居場所もここには無い。恨むなら自分の運命を恨みなさいね」
その言葉だけを残し、ベルモットは背を向けて路地を去っていった。