第13章 過去には
「突然現れた貴女とバーボンが仲良くしてる事は組織の誰も知らないわ」
『はい…』
「それがどういう事か分かるかしら?もしも鼠と疑われている彼が警察関係者の貴女とよろしくやっていると知られたら彼は…」
零が殺されてしまう…
『…何が望みなんですか?』
「貴女の正体よ」
『正体って…ですから私はただの住人ですよ』
「はあ。全く、貴女も中々ね」
呆れた様に小さく溜息を付きながら鞄に手を入れるベルモット。
「これなら、どうかしら?」
彼女が鞄から出した拳銃を向けられ
ずっと緊張感で張り詰めていた空気が、この瞬間に解かれた気がして。
殺されるかもしれないと言うのに、冷静でいられるのはきっと恐怖で感覚が麻痺しているからだろうか。
「貴方が警察の人間では無い事ぐらい分かっているわ」
銃口を向けながらゆっくりと、一歩ずつ近付いてくるというのに足が竦んであまり動けなくて。
銃口を向けられ、両手を上にあげるという行為は洋画でしか見た事が無いし
それを自分がやる事になるとは。
「それとも本当に別の世界からやって来たのかしら」
『それは…』
有り得ないと思う事だからこそ、少し可笑しそうに話すのだろう。
逆に、信じられる訳が無いなら本当の事を話すべき?
けどもし彼女の機嫌を損ねれば撃たれかねない
それとも…流石に白昼堂々に人は撃たない?
まともな判断が出来なくなっている事だけは今自分でも分かっている。
だけど…今はもうそれに賭けるしかない。
『もしも、本当に私がそうと言ったら…』
「まあ、そうね。そんな事ある訳ないと私も思っていたけど…見つからないのよ、貴女の指紋が」
銃口は避けられ、手を上げる必要も無くなったけれど
最後の一言にまた更に冷や汗が額から溢れ出すのを感じて。