第2章 はじまり
さっきからずっと毛利探偵事務所とポアロを嬉しそうに眺めてるこの女性。
何かあるのは間違いないのだろう。
どちらかに用があるとしても、この女性はバッグも何も持っていない。
黒いタイトなワンピースに白のダッドシューズ。
その様子じゃ財布所か、カードやリップすらしまう場所は無い
盗難なら警察に行く筈だしあの嬉しそうな表情からは…。
化粧を感じないのに少し派手な服装とも釣り合っているのは
目鼻立ちのくっきりした華やかな顔をしているからだろう。
華奢な彼女からどこか伝わってくる儚さの様なものは
僕を惹きつけるには十分だった。
こんな事をしている場合では無いのにな。
気付けば彼女に声を掛けていて店内に招き入れていた。
幸い午後のピークも過ぎ去って準備中になるからこの彼女だけを独り占め出来る。
マスターは用があって一時帰宅、梓さんは買い出しに行っているからこれ以上都合のいい状況は無い。
なのに、どうしてさっきからこの彼女は僕に怯えているんだ?
まるで僕の事を知っているかのように。
正直彼女に惹かれて声を掛けたのは勿論、直感で何か怪しさも感じた。
小田島 みなみ。
彼女の名前が知れて何よりさ。
みなみさんにもっと近付くには探偵としての名を利用する他無かった。
それなのに。
どうしてこの男が居るんだよ
赤井の連れ?そうとなれば話は変わる。
にしてもどこかみなみさんの態度もよそよそしい。
何かあるのは間違いないな。
赤井もみなみさんについて嗅ぎ回ってるのか?
面白い。こいつから奪ってやりたい。
みなみさんには申し訳ないが盗聴器を付けた。
“これから送る女性について調べておけ”
耳が壊れるような音と共にきっと赤井が直ぐに盗聴器を潰したのだと察した。
勿論これも計算の上。
お前の邪魔をしてやる。