第13章 過去には
自分の置かれている状況は正直、今でも分からない事が多い
もしもこの日々が実は長くて大きな夢だったとしたら?
直前は思い出せないけれど、その前の事なら覚えている。
もしもそうだとしたら、目覚めて待つのはまた辛い日常
毎日、全てが辛い訳では無い
だけど、その闇から抜け出す事は出来ずにいた。
何だか急にこの世界に閉鎖されている気がしてきて
本当の自分はどこにあるのか、どこへ行くべきなのか。
分からないままで。
視界に入ってくる輝かしくて夥しい程にあるビルが徐々に滲んできて。
だけどもう誰かの前で涙を見せることはしたくなくて
それは現実に居た時からそうだった。
零にも余計な心配はさせたくない
溢れ出しそうな涙を何とか堪えさせて。
「みなみさん、僕の国に居るなら大丈夫。みなみさんの周りには心強い人達が居るだろう?」
『え?う、うん…』
「蘭さんや園子さん、そしてあの子も。ポアロに来るとよくみなみさんの話をしているのが聞こえてくるよ」
『えっ、うそ!』
「嘘じゃない。みなみさんの事を気に入っているみたいだよ」
『嬉しい…』
「だから、みなみさんは一人じゃないよ」
やっぱり零には全て読み取られていて。
曇りかけていた心が小さく晴れてくれた。
『ありがとう。本当に』
「僕はなにも」
『ううん、零のおかげでもあるよ。ありがとう』
「僕も、みなみさんに出会えて良かったよ」
繋いでいる手は暖かくて、何だか気持ちまで暖かくなった。
徐々に街並みは少しだけ見慣れた場所に入っていき
気付けば米花町に入っていた。
赤井さんは朝方まで帰らないとなると、鉢合わせや外出していた事が知られるという行きで感じていた不安は無くなっていた。