第12章 不純に染まる夜
「今は大丈夫なのか?」
『うん!というより、この世界に来てから毎日楽しくてさ。あの頃みたいになる事は今の所無いよ』
みなみさんがこの世界に来た理由は詳しく聞いてはいなかったし
僕自身、こんな事は創作の世界以外ありえないと思っていたから
不思議で仕方がなかった。が、みなみさんの言葉からある程度の察しが付く。
みなみさんの事を傍で見守って、みなみさんを愛するのは僕だったらどれだけ良かった事か。
立場上こんな事を思っている暇なんて無い筈なのに
素直に諦められない自分が居る。
みなみさんとの束の間の時間はこの上ない幸せでもある
近々パシフィックブイに潜入する予定もあり、組織の方でも今はかなり忙しい。
組織の大きな用事ならヤツも赤井のままで動く可能性もある
もし会ったとしたら何と言ってやろう。
だが、赤井がみなみさんを簡単に手放す様にも見えない。
『零?大丈夫…?』
「ああ、勿論さ」
零が何を考えているかはよく分からないけど、普通に生活している人間では到底想像も出来ない、複雑な事を考えているのだろう。
ぼちぼちと下着を付けて帰り支度を始める。
スマホを確認すると、さっきの沖矢さんからの着信が一件とメッセージが一件。
“みなみさん、すみません。今日の帰りは朝方になりそうです。ちゃんと暖かくして眠るように。”
とメッセージが届いていた。
今は一時を回っていて、赤井さんは頑張っているしこうしてしっかりと報告してくれているのに私と来たら…
そんな自己嫌悪に陥る。
支度を終えて、零と手を繋きながら部屋を出る。
車に乗って、ライトアップされた深夜の街並みを助手席の窓から見ながら
ふつふつと色んな事を考えたり。
この世界で見える街並みは現実世界とほぼ同じなのに
あの頃の人達は誰一人も居ないんだよね。当たり前だけども
過去に戻りたいか と言われたらそれは否定するかもしれない。
だけど現実でよく見ていた景色をここから見ると、あの頃が恋しくなったり。
もう戻る事の出来ない日々が突然、鮮明に蘇って。
だけどこの世界に来た直前の事だけは今もまだ思い出せなくて。