第10章 深い繋がり
「みなみ、どうかしたか?」
なんて事を思っていたら最後に洗っていた食器を水に流したまま、赤井さんをジッと見つめていた。
赤井さんの声でハッとして、水を止め食器をラックに入れる。
組んでいた左脚を元に戻しタブレットを置いて少し不思議そうにこっちを見つめる赤井さんの隣に座り、そのまま首に腕を回す。
『赤井さん、生きててくれてありがとうございます』
「どうした、突然だな」
この言葉を伝えるには目を見てだとまだ少しだけ照れ臭かった。
確かに突然だったけどそれに応えてくれる赤井さんの声のトーンは何処か嬉しそうに聞き取れて。
『ふと思い出したんです。赤井さんの話を』
「ホォ…それで突然、こうなった訳だな」
『そうなんです。だから、改めてって思って…』
「そいつは嬉しいな、礼を言おう」
『ううん、こちらこそです。本当に良かった…』
「俺の私生活まで事細かに描かれているのか?」
元の体勢に戻すと、少し興味を持っている様子で上半身だけをこっちへ向ける赤井さん
『私が見ていた所までは事細かくはあまり…それ以降は分からないですけど…』
「そうか、そいつは何だか不思議な感覚に陥るな」
『見れていなかった所からこうして赤井さんの生活を見れるのは幸せです…』
「俺の生活か。みなみから見たらつまらんかもしれんな」
『そんなのは関係ないですよ、赤井さんと一緒に居れるだけで幸せなんですから』
そう言ってまた腕を回せば、赤井さんらしい笑みを浮かべながら背中に腕を回してくれて。
「ああ、俺もだみなみ。お前が居ればそれで十分だ」
『ありがとうございます、私もです』
赤井さんの言葉が本当に嬉しくて。
一緒に居ると今まで傷付けられた心が癒えていく感覚もあって漸く訪れた幸せだというのに
それを素直に受け入れようとしない自分が居る。
頭の中には零の姿もあって…
ふつふつと浮かび上がる感情に呑まれそうになっていると
チャイムがリビング内へ鳴り響く。