第9章 本心は
「お待たせしました、クリームソーダです」
『ありがとうございます!』
一口飲むと口の中に炭酸と共にふんわりと優しい味が広がって
徐々に消えていく炭酸みたいにこの複雑な思いも消えればいいのに
「どうですか?」
『凄く美味しいです』
そう簡単には消えてくれないみたい。
バニラアイスを食べて少し冷ましてみる
「今日はやけにスマホを触ってますね」
『ああ...まあ、此処に来てからあまり触る機会が無くて...』
「それはあの彼から渡された物ですよね?性能等はどうです?」
『はい、性能は普通かと...どうして、そんな事を聞くの?』
「さあ、なんでかな。そのスマホ、あまり使わない方が身の為ですよ」
『どうして、そんな...』
「よく見たら何かが解るかもしれない。いや、見なくても、分かる筈」
『えっ?』
そのまま零の視線の先を辿ると
「ほらな」
うそ...どうして...
車のドアを閉めて、入口へ向かう沖矢さんの姿はあの時感じた恐怖に近い
変装しているから仕方が無いのは分かるけど、素顔の時よりも何を考えているのか読み取れなくて。
一瞬で張り詰められた心を煽るかの様に店内に響き渡るドアベル。
その瞬間が凄くスローモーションに感じて。
「すみません。私の恋人がお邪魔しましたね」
「また貴方ですか。相変わらずタイミングの良い事」
「ええ、自分の恋人の行動範囲は良く分かっているのでね。さあ みなみさん、帰りましょうか」
突然の出来事に立ち竦んでしまって。
腰を抱き寄せられ、少しバランスを崩しそうになった所を零の手によって支えられる。
『ありがとう...ございます...』
「随分と強引なんですね、嫌がっているんじゃないですか?“恋人”だと言うのに」
零に掴まれた手がスっと離れる。
「連絡を入れていなかったのでね、みなみさんが驚くのも無理は無いかと」
「連絡?いいや、恋人を監視するだなんて。有り得ませんね」
「一体何の事だか...貴方とこうしてお話しているのも悪くは無いですが、仕事の方は大丈夫なのですか?」