第9章 本心は
視線をカウンターに向ければ帰る準備をしているお客さんが視界に入る。
幸い今居る二組のお客さんはどちらも常連のご老人だから、多分...この会話はあまり聞こえていないだろう。
その言葉に乗せられる様に少し不服そうな顔をした零はお客さんの所へ向かった。
「さあ、行きましょうか」
『はい...』
零がお客さんの対応をしている代わりに休憩明けのマスターが来て
零とはそのままお別れだった。
ドアを開けられ、車に乗り込み走り出す。
今さっきまでは零が居たから少しは平気だったけれど今は二人きり。
視線だけを横に向けると相変わらず真顔の沖矢さん。
『あの...沖矢さん、本当にごめんなさい』
「ええ」
全て自分が悪いのは確かなのであって。
取り敢えずの謝罪に返された言葉はたったの二文字。
どこからどう見ても怒っているのは明らかで。
だけど、こっちからも聞きたい事はある
零の言いたい事が分かった気がする。
このスマホにGPSが付いていれば今までの事にも辻褄は合う
ただ、怖くて聞けないのもあって。
あの返事以降、お互い言葉を発する事無く工藤邸に到着してそのままリビングへ。
向かい合って座ると何だか尋問みたくて。
『あの...約束を破ってしまって本当にごめんなさい』
「ええ、確かに私は任せた筈でしたがね...少々それは難しかったのかもしれませんね」
『それは...』
「そんなにあの彼に会いたかったのですか?」
『安室さんにはお世話になっていたので、引越した事を報告しに...』
「ホォ...それは確かに、文章よりも直接の方が気持ちが伝わり易いですね」
『はい...』
怖い。まだ沖矢昴の状態だから優しいのかもしれないけれど
これが赤井さんだったらと考えると...
自分が百悪いのは承知の上で思う事は、約束を破り黙ってポアロで零と話していて。
怒るのも無理は無いけれど、相手が零じゃないとしてもここまで怒るの?
二人の因縁の様な物ははっきり言って私には関係無い。
それに沖矢さんだって...
「想像よりも早く事が済んだのでね、貴女の喜ぶ顔を想像していたのだが...」
テーブルの上に肘をつき、開眼させた瞳はまるで全てを見透かすかの様で。