第9章 本心は
言葉とは裏腹に零の表情は何だか少し曇っていて。
『安室さん...?』
「ああ、ごめん。注文はどうする?」
『えっと、じゃあ クリームソーダで』
「畏まりました」
注文を受け取った零はカウンターへ戻って行った。
例え話さなかったとしても、何れはバレる事だろうし
もしも沖矢さんが本当に零にお礼をするつもりなら、今自分から話した事が正解だったと思う。
カウンターキッチンで調理している零の姿を見ると
どうしてか申し訳ない気持ちというか、またあの時の零が過ぎって。
赤井さんへの思いはとっくに自覚している。
だけど零へのこの思いは...
考えてしまうと頭も心も複雑になっていく。
スマホを見ても沖矢さんからの連絡はまだ返ってきてない。
あっという間に11時を越していて、いつ“帰る”と言うメッセージが届くのか分からなくて少しヒヤヒヤする。
気を紛らわす為にも、渡されてからメッセージアプリや検索以外あまり弄っていなかったスマホを操作する。
向こうに居た時はあれだけスマホを触っていたのに
人から与えられた物だからなのか、あまり触っていなかった事に我ながら驚いたり。
既に入っているアプリやストアを見ても向こうの世界と同じような物が入っていた。
ゲームでも入れようかな...
その画面の向こうに居るのは赤井か?
あの男が女性を相手に当たり前のように一緒に生活をしてやり取りをしている事実に違和感すら感じる。
潜入でも何でもないのにそこまで尽くすとは。
相変わらず腹立たしい男だ。
どうせ仕込んでいるであろうGPSの事をみなみさんが知ったらどうなるか。