第1章 狭い鳥籠
『そういえば…私はなんとお呼びしたら良いですか?アン達の様にキャットさんと呼んでも?』
「『さん付け』はやめろ」
『ではキャットとお呼びしても?』
「好きにしろ」
どうやらキャットさんと呼ばれるのが相当の地雷らしい。どうせ私の事は名前で呼びそうにもないから何も言わないでおいた。
『それでは道中お気を付けて』
「そっちこそ気をつけて来いよ」
『はい。それでは』
キャットが店から出ていくのを見送って、控え室に戻った。
「それで?あの男とどんな契約を交わしたんだ?」
『結婚する契約よ』
「あっはっは!まさか!お前がそんなにも恋に焦がれていたとは!」
『違うわ。お互い面倒な人に目をつけられているから、結婚した事にしましょって事よ。結婚式はあげるつもりはないし、ただ周りに結婚したって噂を流して夫婦に見せかける様にするの』
「そうか、違ったか。面白くない」
『全く…私は困ってるんだから』
「そうだな、私としても大切な子を脅かす存在は不快だ。そろそろなんとかするべきだとは思っていたがな」
どうやらロイファも相当おかんむりの様で、自分でも策は練っていたらしかった。そうなら相談の一つでもしてほしい所だが。
『兎に角このお店は閉めてキャットの所に暫くご厄介になるわ。あっちでの職はあっちに行ってからでも遅くないし、今は準備に専念しましょう。ロイファも必要な荷物を纏めて』
「また旅か。まぁ悪くないが
『面倒な人に付き纏われるよりマシでしょう。漸く此処を離れることができて清々する』
ぐいっと伸びをしてから、紅茶のお代わりに手を付けた。店を閉めるには早すぎる時間だが、どうせもう今日で閉業だし問題ない。
「…来たな」
『また?』
どうやら今日も懲りずに来たらしい。お店の看板はCLOSEDになっているはずだから諦めて帰ってほしいものだが。
「此処で黙って紅茶を飲んでいろ。カーテンも閉めておくか」
『そもそも入って来れないでしょう。先程鍵を掛けたし、お店のドアからはこの部屋の様子は分からないわ』
「毎回飽きずによく来るものだ」
『貴族である癖にノブレス・オブリージュも果たさず何が恋愛結婚よ。ジジイの嫁ぐ物好きだとでも思われてるの?腹立つわね。そんなんだから結婚できないデブジジイになったのよ』
「聞こえないのを良い事に結構な毒舌だな」
嫌気がささない訳がなかった。