第1章 狭い鳥籠
羽ペンと紙を渡すとスラスラと地図を書き出した。アンの話によると、サウスセントの元店だった所を追い出されてから、銀砂糖子爵に貰った100クレスでルイストン郊外に物件を借りたらしい。
「ほらよ」
『ありがとうございます。では店を閉めたら向かいます』
「お前はここを閉めたらどうするつもりだ?」
『そうですね…ルイストンで新しい物件でも借りて、画材でも売ろうかなと』
「画材?」
『ええ。色粉はウェストルでしか売れないので。ルイストンでは各職人が自分達で色粉を確保しますしね。それに色の銀砂糖が出始めた今、段々と色粉の役割は減っていきますし、丁度転職しようかと考えていました』
「悪かったな。こっちに来させるようにして」
堂々としていれば良いのに、相手を気遣うような事するのか。アンが懐くのも分かる気がした。
『いえ。お金には困ってませんので』
「そ、そうかよ…」
『まあ、最終手段もありますから。心配はしないで下さい。それから…ロイファ!こっちへ来てくれる?』
私の大好きなお友達を呼んだ。彼女が生まれた時からずっと隣にいる。
「なんだ」
『私はしばらくルイストンの郊外にあるこの人のお家にご厄介になるけど、貴方はどうする?』
「お前が行くなら私もそこに行こう」
『お部屋は一緒で構いませんので、彼女も一緒にいいですか?』
「別に構いやしねぇが…」
「おや、君も同胞を連れているな」
ロイファが目の前の男の肩に乗っている小さな妖精に近付く。
「ベンジャミンだ。料理ならやってくれる」
「そうか。君は石の子だな」
「ん〜そうだよぉ…。僕は緑のツルツルした石から産まれたんだぁ〜」
「大分おねむな様だ」
ロイファは面白そうに微笑んでから数歩下がった。
『こちらはロイファ・バルト・フィルス。私と一緒にいる妖精です』
「そういう訳だ。よろしく頼む。キャット」
「テメェ…あのチンチクリンの旦那から聞きやがったな⁉︎」
「はっはっは!威勢が良いのは結構だ。まぁ宜しく頼むよ。さん付けしなかっただけ可愛いものだろう?」
ロイファはおちょくるのが好きだ。こういう事になるからわざわざレジに行っていたのだと思ったが…本当はちょっかいを出したくて堪らなかったらしい。
『すみません。こういう性格で…。兎に角準備が出来次第向かいます。明後日迄には到着すると思いますので』
「分かった。待ってる」