第1章 狭い鳥籠
「それで、どうするって言うんだ」
『私達、結婚した事にしませんか?』
馬鹿な人なら結婚が嫌なのにこんな提案と怒られるのが筋だが、目の前の人は熟考している。
「それで口実を作る訳か」
『ええ、婚約でも構いませんが、既成事実があった方が確実かと思いましたので』
「そうだな。そうするか」
『即答なさるんですね』
「そうするべきだと思っただけだ」
『ではその上で私から条件を2つ、良いですか?』
条件と言っても別に相手に不利はない。私は貴族からの求婚を断る口実があればそれでいい。
『私の問題が解決した場合でも、貴方の問題が解決するまでは偽装妻で居続けます。また、貴方の問題が解決した場合、その時点で婚姻関係は解消します』
「はぁ?」
『それから、婚姻関係破綻後は、私が浮気したと周囲に伝えてください』
「なんでそうなる?」
『無理強いをしているのはこちら側ですので、誠意を伝える為です。元々結婚願望がありませんので、私には特にダメージはありません』
「気にくわねぇ」
なんとまあ律儀な人。普通の人であれば間髪入れずに首を縦に振ると思ったのに。こんなに面白い人に出会ったのは初めてだった。
「お互いの問題が解決するまでと、性格の不一致で良いだろ」
『貴方がそういうのであればそうします』
契約書を書き換えて、彼の言った通りにした。
「あと家とかどうすんだよ」
『そうですね、この国では嫁入りが普通ですから、私が嫁ぐという形が自然かもしれませんが…貴方が婿に来るでもどちらでも構いません。ただ、暫くは貴方のお家に御厄介になった方が貴方の問題の解決に尽力できるとは思います』
「じゃあそれでいい」
『一応外聞を気になさるなら、結婚式は簡単にした方がいいかもしれませんが、貴方が嫌ならばしなくても構いません。お互い理由があってしないと言えば相手も深く聞き込む事はないでしょう』
「しなくても良いだろ。多分」
『ではそのように』
結婚式は私も正直言ってやりたくはなかったので、かなり助かった。
『契約書、書き直しましたのでご確認お願いします』
私から紙を受け取り、入念に一文字一文字読み上げていく。この人は、どうやらかなり慎重派らしい。
「問題はねぇ。準備が出来次第家に来てくれ」
『分かりました。お家はどちらに?』
「ルイストン郊外だ。地図を描くから紙をくれ」