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猫の首に鈴をつける

第1章 狭い鳥籠


木製の赤く塗られたドアから、4回のノックの音が聞こえた。そしてプレートをひっくり返す音も。これは『大切なお客様』がいらっしゃった合図だと、自分でそう決めている。

「来たようだな」
『ええ。ロイファ、紅茶の準備をお願い』
「ああ」

店の控え室に先に向かう親友の妖精を見送った後、ドアの方を見つめた。見覚えがある銀の髪と、私と同じ青い瞳。知り合いの銀砂糖師から聞いた見た目と間違いない。

『いらっしゃいませ。お探しのものは?』
「緑の紅茶だ」
『どうぞこちらへ』

レジの横のスイングドアを手前に傾けて、銀砂糖師を招き入れた。控え室まで先導して歩いていく。

『こちらへおかけ下さい』
「ああ」

私は入り口から近い位置に座り、向かい側に銀砂糖師が緊張した面持ちで座っている。

『お待ちしておりました。まずは自己紹介から始めましょう』
「分かった」
『私はエレノア・エインズワース。この地で砂糖菓子職人の為に色粉を売っています』

普通は自分たちの手で色粉を作るものだが、このウェストルは冬の寒さが厳しく、自分で色粉の調達が難しい。なんせ秋から冬にかけて植物達は皆落葉し実も落ちていく。自分たちで行けたら良いのだが、シルバーウェストル城という銀砂糖子爵の住む城のお膝元という事があり、砂糖菓子の注文はひっきりなしに来る。つまり忙しすぎることと、環境のせいで自分で色粉を調達できないのだ。その人達の為の私の店というわけだ。

『貴方は…』
「俺はアルフ・ヒングリーだ」
『ありがとうございます。アン達から聞いていた情報と間違いなさそうです。それでは改めまして、こんな寒い中、ご足労いただきありがとうございました』

頭を下げた後に、親友の妖精から紅茶が出された。私達の話にはあまり興味がないみたいで、そそくさとレジの方に行ってしまう。

『それでは、お互い認識の齟齬がないように確認から始めましょう。まずは貴方の状況から。貴方が未婚であるのをいい事に貴族のご令嬢がずっと貴方に言い寄ってくる、それもここ一年ほどずっと。間違いありませんか?』
「ああ。間違いねぇ」
『確認ありがとうございます。では私の状況ですが、私も貴方と同じように貴族のおじ様から求婚を受けています。私には結婚の意思がありませんので困っています。ここまででお互いの状況はなんとなく理解はできましたか?』
「ああ」
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