• テキストサイズ

猫の首に鈴をつける

第2章 旅路


『大丈夫です。その通りにすれば良いだけですから』

しきりに大丈夫という言葉を使うのは、相手に安心感を与える為だ。一年も迷惑行為を続けられては疑り深くなってしまうのも必然である。

『明日から私とロイファはずっとお店の入り口にいます。そうしたら誰か来た時でも応対できますし、キャットが手を止める必要もないでしょう?』
「分かった。任せて良いんだな?」
『はい。砂糖菓子のご依頼の時はキャットを呼びます。作るのはキャットですから、私が独断で作るとは言えませんから』
「そりゃそうだな」

早々に昼食を食べ終えたキャットは足を組んで窓の外を眺めていた。外は凄い吹雪だが、こんな日でも令嬢が来ないかと警戒しているのだろうか。

『ご令嬢の容姿は覚えていますか?』
「茶髪に赤い目。兎に角派手な服装だ」
『それだけ聞ければ十分です』

私も急いでスープを飲み終えて、スプーンを置いた。せめて食器くらい片付けなければと思い立って席を立った。

『心配しなくても、今日は来ませんよ。あのご令嬢』
「わかんねぇだろが。何しても来るやつだぞ」
『分かりますよ。普通、貴族の女性は服が汚れる事を酷く嫌います。意中の殿方に会いに行くのに、この雪じゃびしょ濡れですから。あのご令嬢、天気が悪い日とその次の日は来なかったのではありませんか?』
「そういえば…」
『雨が降れば服が濡れますし、雨が降った後は地面がぬかるんで、運が悪ければ服に泥が跳ねます。ご令嬢は、これを嫌がる筈です』

そう言うと、キャットは心底ホッとした様に窓から目を離した。もう警戒する必要がないと分かったからだろう。

『食器、片付けておきます。一応私達は下の店の入り口にいますから、何かあれば言ってください』
「ああ」

それぞれ立ち上がって午後の作業に取り掛かった。私は食器を集めて洗い場に行き、キャットは下の作業場で依頼があった砂糖菓子制作を再開した。

『ベンジャミンはキャットの隣にいなくても良いのですか?』
「う〜ん。僕はあんまり砂糖菓子を作るのに役には立たないからねぇ〜」
『そうですか…。でもお料理とっても美味しかったですよ』
「ぼく、お料理は好きなんだぁ〜」

のほほんと言う姿がとても愛らしかった。料理の腕は本当に素晴らしいし、キャットは素敵な妖精とパートナーなんだと思うと、ちょっと可愛らしく思えてくる。
/ 19ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp