第9章 モブリット生誕記念『今日の主役』
緊張で手が震えてしまい、持っていたティーカップからアツアツの紅茶が唇にかかってしまった。
「あちっ!」
「大丈夫か?」
「は、は、はい!お気遣いありがとうございます!エルヴィン団長!」
「そう畏まるな。今の私は君の荷物持ちなんだからな」
「お、恐れ多いです……」
そう。私は何故か調査兵団のトップであるエルヴィン団長と昨日の街で買い出しをすることになっていた。
いや、まあ、たまたま街で出会って、事情を説明したら荷物持ちを名乗り出てくれたっていう、立派な経緯があるんだけど…。
勧誘式の壇上で演説をしていた団長には、雲の上の存在特有のオーラというか、近づき難い雰囲気を感じていて…実際上官であるのは間違いないから、決して親しみやすいという訳では無いし。とにかく、一介の新兵が団長をこき使っているという状況に戸惑いが隠しきれなかった。
喫茶店を出る時もお会計してもらっちゃったし。明日私、天罰が下るんじゃなかろうか……。
「ほら、荷物を貸すんだ。出発するぞ」
「っはい!」
かと言って厚意を無下にするのも罪深い気がして、私は大きな背中を慌てて追った。