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【短編集】海を見に行こう

第2章 ゼロ距離



「ちょっと個人的に恨みが。」
ジャン…何をしたんだ。
「モブリットさんは次に!"やはり恨みがあったのか"と言う!」
「やはり恨みがあったのか。…ハッ!」
「フフフ…赤子の手をひねるより楽な作業よ…」
「さっきからそういう台詞辞めてくれないか?なんだかダメな気がするんだが」
「すみません」

ニヤニヤしてはいるが、ようやっと気が済んだらしいジェスに胸を撫で下ろす。
彼女の喋るペースはハンジさんの巨人マシンガーントークよりは可愛いものだが、最近は磨きがかかっていて油断できない。
ジェスに振り回されることに慣れてしまっている自分が末恐ろしい…。

そしていつも通り、満足した彼女は憑き物が落ちたように静かになる。作り直している書類もまるで別人が書いたかのように精巧だ。新兵が彼女の落差を初めて見た時は"奇行種のようだ"と言って地面に突き刺さっていたので、私も思ったことは言わずにおく。彼女の対人格闘術の成績を知っていてよかったと思う。

ジェスを見張る意味も込めて向かいのソファに腰掛け、中断していた作業を再開する。

パラパラという紙の擦れる音だけが部屋に響く。
何も会話をしない時間というのも信頼した部下となら心地よいものだが、口を閉ざした時の彼女とはどうにも落ち着かなかった。

と言うのも、黙っていれば彼女の姿は花のように美しいからだ。
頬に落ちる長いまつ毛の影、宝石のような瞳、赤く染った頬と唇は、以前東洋にあると聞いた牡丹の花のようだった。
変態的な顔をして私を追いかけて来る時は特に気にもしないのに(そんな余裕もないと言うのが正しいのだろうか)、こうして改めて見る暇ができてしまえば私は顔に熱が集まって、普段の調子を出せなくなってしまうのだ。
副長としてのメンツの為にも、部下とそうした空気になるのは避けたい。徹夜続きで判断力が鈍っていたのもあったが、会話が続かない上司となんでもいいから話題を繋げるように対応したことが特に良くなかった。

私は考えていたことをつい、口から滑らせてしまった。

「そうしてるとキレイだよな、ジェスは」
……と。

今までに見た事のない素早さで顔を上げたジェス。しまったと思った時には既に遅く、私のデスク周りはジェスの鎮火が済むまでの持久戦最前線となった。

そして、冒頭に戻る。
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