第5章 ■香水
「モブリットさん!」
水の入った桶を持っていた彼女は零さないようにゆっくりと、しかし早足で私の元へ来た。
「突然倒れたので驚きました」
「うん…心配させてすまないな」
「とんでもないです」
微笑んだ彼女に罪悪感が募る。
そんな私の心中も知らずに彼女は「さあ横になってください」と私の肩を押し、絞ったタオルを額に乗せてくれた。
「熱、下がりませんね…」
「無理が祟ったのかな。介抱してもらって悪いんだが、仕事に戻らないと」
「ダメです!機密書類意外はやっておきますから!」
「いやいや、部下にそこまでさせられんだろ」
冷たいタオルを額から取り、上体を起こすとまた肩を小さな手で押される。しかし、私も負けじと腹筋に力を入れ耐える。だが彼女も兵士なのですぐにはバテず拮抗する。
仕方なく戦略を変更する。力を抜き、彼女が慣性の法則でベッドに倒れたら避けて机に向かうというものだ。
「あ!」
「あ」
けれども作戦にはひとつ誤算があった。
それは私の体が熱に浮かされて思うように動かせないことだった。
勢いをそのままに体が倒れ、私の上にジェスが隙間なく重なった。
2人分の体重を受けてベッドが軋み、目の前の彼女の髪から、またあの匂いがした。
それのせいで鎮火しかけていた夢の残像が蘇り、全身の血が滾ると同時に濃厚な甘い匂いで頭がクラクラする。
今回は毛布で誤魔化すことも出来ない。なぜなら、彼女の腹が私の腰の上に乗っていたからだ。きっと硬くなったモノにも気付かれている。
勃起したせいで体中熱かったが、脳は少しだけ冷静だった。体が触れ合っただけで興奮する変態だと思われたに違いない。最悪だ。
自己嫌悪に陥っているのに、私の陰茎は萎えることを知らず元気なまま。はち切れそうな股間が苦しく、呼吸も荒くなってしまう。
優しい彼女のことだ。「忘れて、部屋に戻って欲しい」と言えば従ってくれるに違いないのに、口は言うことを聞かず縫い付けられたように開かない。
なぜ思うように動かないのか考えることすら、思考が麻痺してきたせいで不可能になる。
そんな中ひとつだけ。
私の頭に浮かんだのは、たったひとつだけだった。
彼女を抱きしめ、もっとこの香気に溺れたい。