第5章 ■香水
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夜更けに部屋へやってきたのは、私の直属の部下であるジェスだった。
どうやら彼女はハンジさんに仕事を押し付けられてここへ来たらしく、風呂上がりなのか少し濡れた髪の奥に見える瞼が若干眠そうに見える。
徹夜に慣れている私と違って新兵である彼女を早く寝かせてあげたい気持ちもあったが、紅茶をいれてくれるという彼女の好意に甘えて部屋に残ってもらう。
部屋に入って来たと同時に漂ってきた彼女の香りに、本能が「引き止めろ」と言っているようで離し難かったのだ。
しばらくして、カップをふたつ持った彼女がこちらへやって来る。
ひとつを私へ手渡すと、彼女は側まで椅子を持ってきて私の近くへ座った。私の話し相手になってくれるようだ。
それから色々な話をした。
直属の部下ということもあって知っていることも多かったが、ジェスとする話はいつだって新鮮だった。彼女の配慮がそうさせるのかもしれない。
私は彼女のような部下を持てて幸せだ。
ふと、動悸がすることに気付く。しかも急にだ。
ドッ、ドッと苦しいくらいに心臓が大きく脈を打つ。
なぜだろう。過労や心労など心当たりのあるワードが頭を掠めるがそのどれもが違うとはっきり言える。
ついに足腰に力が入らなくなり、座っていた椅子から滑り降ちる。遠くでジェスの声がする。
きっと心配して、そんなような言葉を掛けてくれているに違いない。
大丈夫、心配ない。
そう言ってやりたいのに口から漏れるのは呻き声や青息ばかり。呼吸ができなくなるくらいの心音は治まらない。
暗くなっていく視界の中で、今夜のジェスはなんだか色っぽいななんて、普段は絶対に思わないことを思った。