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【短編集】海を見に行こう

第5章 ■香水



「何か用か?」

一区切りついたのかペンを置いたモブリットさんが、隈の酷い目頭を押えながら言う。根を詰めすぎてるんじゃないかと心配になるが、下手に無責任なことは言えないのでねぎらいの言葉しか送れない。

「夜分までお疲れ様です。これ、ハンジさんから預かってきました」
「ありがとう。……これ、明日が機嫌じゃないか!」
「わっ」
「あ、あぁ驚かせてすまない。ついな」

そういって机の上の書類の山に、今渡した物も重ねる副長。私は気にしていないことを伝える。いずれ、昇進すれば同じ立場になるのかと思うと咎められない。というかモブリットさんの大声なんてむしろご褒美だ。普段から落ち着いた声を出すから、いつもとは違って新鮮だった。

「よければお手伝いしましょうか?」
「いや、さすがに悪いよ。機密書類もあるから大丈夫だ」
「それならせめて、お茶でも…」
「いや……。うん、そうだな。頼もうかな。外は冷えたろう?ジェスも飲んでいきなさい」
「いいんですか?ありがとうございます!」

一度は遠慮しようとした副長だったが、空のマグカップと積まれた書類を交互に見ると困ったように笑ってマグを差し出してくれた。

入口から見て右側の壁にある棚からカップとティーポット、茶葉を取りだす。ティーポットに赤い茶葉を小さじ2杯、さらに側の暖炉で温められていたポットからお湯をなみなみと注ぐ。

数分待って茶葉が開いたのを確認すると、モブリットさんのマグカップと自分のカップに紅茶を注いだ。

「おまたせしました」
「ありがとう。砂糖入れなくていいのか?」
「大丈夫です!」
「そうか。大人になったんだな」
「なんですかそれ」

軽口を叩いて微笑んだモブリットさんに私も釣られて笑う。彼が笑うと心がきゅっとして好きな気持ちが溢れ出てしまうから参ってしまう。
モブリットさんの眠気が飛ぶように濃いめに出した紅茶はやっぱり苦くて、嘘をついたことを少し後悔した。咄嗟に遠慮してしまう点で私は人のことを言えない。
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