第4章 一対の翼
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ジェスを捕らえていた太い指を切り落とし、運良くアンカーが外れて落ちていく彼女を横抱きにして空を飛ぶ。新兵たちと合流したせいか、先程の場所には数体巨人が集まってきていた。
助けに行く時間がもう少し遅かったら…。
"もしも"を想像したら背筋に寒気がしてすぐにやめた。
「うっ」
「すまない、我慢してくれ」
風圧が骨に響いたのかジェスが呻き声をあげる。彼女はいつもそうだ。訓練兵時代からずっと、自分よりも他人ばかり優先して怪我ばかりする。今すぐにでもお説教をしたいのに苦しげな彼女を見ていると焦燥感だけが募ってうまく息ができない。
「ジェスさん!」
「彼女を頼んだ」
先程助けられていた二ファにジェスを預け、私は巨人に向き直る。陣形的に、後方を走っている医療班が私たちに追いつくはずだ。抱き抱えた時、意識が消えていたわけでもなかったから、処置すれば彼女は助かる。焦る気持ちは無いはずだ。
…しかしなんだ。先程からのこの妙な苛立ちは。
ジェスを助け出した時からずっと、ぐらぐら沸いて止まらない怒りが体中を胎動している。
仲間を失ってやるせなくなる時の感情にも似ているが、少し異なる。視界がクリアで自分がどうすればいいのか、どうしたいのかが考えずともわかっていたからだ。
「モブリットさん!?」
驚くアーベルの声が遠くに聞こえる。
私は単騎で屋根を飛び降りると、1番近くにいた10m級の腱を削ぎ落とし転ばせる。すぐさまソイツの項を削ぎ取り死体にしたところで、近寄ってきた巨人を避ける。その巨人は死体に転ぶと、さらに後ろに続いていた巨人たちを巻き込んだ。
家屋の壁に張り付いて、全ての巨人が折り重なって動けなくなったのを確認すると、1番上から順番に攻撃していく。
体格が大きく暴れられると面倒な巨人は目や腕を潰してから弱点を狙った。無我夢中で刃を持つ手を振り下ろす。何度も何度も。
「…まだだ」
蒸発する巨人の血を一身に浴びながら刃を取り替え次の攻撃に移る。どれだけ削いでも削いでも怒りは収まらなかったが、やっと到着した医療班がジェスを回収したのを見届けると不思議と心が凪いでいった。