第3章 My Honey
手紙をいつも届けに来ていたのは私専属の侍女だ。
生まれつき喋れないのだという彼女とは筆談するようにしていたが、手紙の文字は彼女の字だったのだ…。
おかしい。おかしいよ。私ならすぐに気づけたはずだ。侍女の字なんていつも見てたのに。こんなの嘘だ!
「……葬儀はネーナさんが喪主になったよ。これ、おばさんがずっとお前に渡したがってた」
「手紙…」
茫然とする私に構わずモブリットが褪せた手紙を渡す。手紙に垂らされた封蝋に、乾燥して色鮮やかになった花が添えてあった。私の好きな花を知っているのはあの町の人達だけだった。
丁寧に封を開けて中を確認する。
手紙には、私を心配していること、モブリットが壁外調査で生き残って安心したこと、ウォールマリアで蔓延した流行病にかかってもう長くないこと、そしてどんなに現実に打ちのめされても、どうか生き残ってほしいと震える字で綴られていた。
思わずその場にへたり込む。
モブリットは静かに私のそばにいてくれた。
泣いてはいけなかった。私が泣けば言いがかりを付けられてモブリットが処分されてしまう。泣くのは1人になってからだ。
「……お前が無事でよかった」
モブリットの言葉で心が決壊してしまった。
「……無事じゃ、ない」
「っ」
「無事なんかじゃないっ。私、あの人に抱かれた。もう生娘なんかじゃない。穢い身体なの。お母さんも守れなかった。1人になっちゃった。あの場所で……1人……!」
涙の膜を張った目から涙が溢れそうになる前に、私の唇は引き寄せられたモブリットによって塞がれていた。驚きで涙が引っ込む。
いつも感じる、気持ち悪さも罪悪感も感じない気持ちのいいキスだった。夢中になって何度も角度を変えて舌を絡ませあってお互いを確認した。
顔が離れると舌同士に唾液の銀糸が繋がって切れた。
熱を持った彼の目に射抜かれたまま、近くの倉庫に連れ込まれると私たちは体を繋いで熱を分け合った。