第3章 My Honey
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外鍵の付いた部屋の中で何もしないまま衰えてしまった筋肉にムチを打ち、数少ない役割のために嫌いなコルセットをして夫の仕事の付き添いに行く。
あれから数ヶ月経ったというのに、未だに押し殺せない涙は朝のうちに流しておいた。
…あの日、私を迎えに来たのはモブリットではなく、恰幅のいい貴族の男とその護衛数人だった。曰く、仕事の都合で見かけた私に一目惚れをして求婚に来たのだそうだ。もちろん反抗はしたが、私の反論も聞かないまま護衛の1人が私を馬車に押し込み、逃げようとすれば捕まった母を殴り出すので私は馬車に揺られて、ウォールシーナへ嫁ぐことになってしまった。
結婚式には知らない人ばかりが参列した。
夫になった男が部屋へ夜這いに来れば抵抗することも出来ずに抱き潰される日々が続いた。
毎日、毎日、毎日。
もう全部投げ出して消えてしまいたかった。
モブリットみたいに壁の外へ行きたいと私が思うだなんて。少なくともアイツと過ごす夜より、巨人と過ごす方が数百倍マシに決まっている。
「今日も綺麗だなジェス」
「…ええ、ありがとうございます」
そんなことひと言も言えないけど。
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夫の仕事は王政の参謀で、主に壁内の全兵団との橋渡しを担っていた。普段はデスクに向かって兵団の財務管理や視察などを行っているが、その実、武力のある兵団と王政で反乱が起こらないように目を光らせる見張り役であった。
私はそんな夫の付き添いで、兵士たちに差し入れを振る舞う妻の役をしていた。夫の前では本音を言わない兵士たちの懐に入ることで王政に盾突く芽を早々に見つけ密告するためだった。
幸い、連れてこられてから今まで兵士たちにそういった動きはなく、辛い役目を実行に移すことはなかった。