第10章 ▲ラットの堕地獄
沈黙を破ったのは当然だがモブリットだ。
「最近、ジェスさんとの記憶を夢に見るんです…」
モブリットとハンジは私より年下だった。
話しやすい方で良いと断った時、年の近いハンジはすぐにタメ口になったが、生真面目なモブリットはこんな時までも丁寧に話す。
「初めて出会った時、可哀そうな人だと思いました。口減らしなんて嘘をつくから…。
でも、あなたがあそこに捨てられていて良かったとも思ったんです。出会うことが出来たから…」
自嘲気味に笑う顔は、ハンジがいるときは決して見せない顔だ。
情で揺らげば、拷問官なんてやってられない。だからさっき、ハンジの言葉の先をモブリットが止めた。
故郷で裏切り者の同胞を同じように殺した、私だからわかる。そして私は、モブリットからの好意も知っていたし、同じ気持ちだった。
だからこそ、一言も零すことが出来なかった。
どんなに痛くても、悲しくても辛くても。
この残酷な世界の真実に気づいてしまえば、つかの間の平和を壊してしまうから。