第3章 毛利探偵事務所
そもそも蘭姉ちゃんの家で頼みたい事なんて私にできるのだろうか。
「…頼みって?」
思わず声色に不安な思いが乗ってしまった。
優作
「難しい事じゃないからそんなに不安にならなくていいよ。音羽だからできる事を頼みたいだけだからね」
「…うん」
娘のそんな変化にお父さんが電話越しだとしても気づかないわけがない。
言葉だけで私を安心させてから、お父さんは頼み事を話し始めた。
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本当はこの電話の次の日くらいからお父さんは私を行かせたかったようだが、生憎毛利のおじさんに仕事が入っていたらしい。
それでも3日間は家に帰れないからその後でならうちで面倒を見ると、お父さんの申し出を快く引き受けてくれた事に感謝でしかなかった。
それにしてもお兄ちゃんが突然来てしまったすぐ後にも関わらず、工藤さんの頼みだからと私まで迎え入れるのだ。
せめて私だけでもおじさんと蘭姉ちゃんに迷惑かけないようにしなくてはいけない。
「…ひさしぶりに来たな」
ポアロという喫茶店の上に構えている毛利探偵事務所。
更に上には蘭姉ちゃん達の自宅がある。
「………」
少し緊張しながらも、電気が付いている事務所を目指して階段を登っていった。
博士の家はそれどころではなかったのでひさしぶりでも緊張しなかったが、今はものすごく緊張してしまっている。
「ふぅ…」
でもいつまでも入口の前に立っていると不審者にしか見えないだろう。
こんな事で迷惑をかけるのが1番まずい。
私は思い切って心の準備などできないまま、楽しげな声が聞こえてくる向こうへと続くドアを開いた。