第1章 ご主人様と猫。猫のお話。
手枷の鎖を引く人間は、部屋に向かう途中悠に告げた。
「お前を買った人は、噂じゃ犯罪組織の幹部だそうだ」
犯罪組織、と口の中で小さく呟く。
テレビのニュースで聞いたことがある言葉だ。現実味がまるでない。
「良かったな。八千五百の方じゃなくて」
「………?」
どちらにせよ、買われた事実に変わりはない。
けれど。
「アイツ結構界隈では有名でさ。定期的に少女を買いに来るんだよ」
な?と悠の背後の二人に声を掛ければ、二人も頷く。あまり好かれた人ではなさそうな雰囲気だ。
言われた意味が理解出来ずに悠はただ首を傾げた。
「定期的に、だ。買われていった少女が、何処でどうしてるのかは誰も知らないんだと」
「………?」
可哀想にな、と吐き捨てるように言った。
だから犯罪組織の幹部であるその人が良い、と言う意味でも勿論ない。
二億。一体自分の何にそんな価値があるのだろう。臓器?それとも…?
売られた人間がどうなるのかは、買った人間にしか分からない。
元より返る場所もない。
だからこそ、こんな所に居るのだが。