第2章 ご主人様と猫。ご主人様のお話。
ふかした煙草を片手で下ろす。吐いた煙が辺りに舞っていた。薄暗い会場内に、彼女の顔が煙で一瞬消えたように見えた。
たぶん興味本位で。
ただ、それだけ。
「 二億 」
購入意思を伝えるシステムとして片手を上げた三途に場内の視線が一気に集まり、しんと静まり返った。
これだけ積めば、誰も文句はねェだろう。
金持ちジジィも焦った顔で此方を見ている。傑作だ。
司会すら声を上げずに息を呑んでいた。
面倒臭ェ。買うって言ってンだろ。
「聞こえなかったのか、あァ?二億だっつってンだろ」
三途の低い声に、司会が慌てて場を仕切った。興奮気味な声が響く。
「二億…。二億です!二億が出ました!他にいらっしゃいませんか?」
八千五百万を提示していた男が悔しそうに座り込んだ。ザマァミロ。
「他にいらっしゃらないようでしたら、これにてニ億で落札とさせて頂きます」
ザワつく会場からぱらぱらと疎に拍手が起こる。次第にそれは、落札を認める大きな拍手へと変わっていった。
三途が顔を上げる。
舞台上の彼女は、ただ驚いたように此方を見ていた。
ほんの一瞬、その瞳と視線が重なった気がした。
「では、これにて二億で落札とさせて頂きます!」
拍手はしばらく鳴り止まない。
今日のオークションはこれで終わりだ。
大トリには相応しい演出だっただろう。
ンなもン興味はねェが。
三途はまだ吸い掛けの煙草を床に落とし、足で踏んだ。
思わず笑みが漏れる。
新しいオモチャを手に入れた。
衝動のように欲しかったもの。
自分に従順な存在。
与えて、躾けて。
俺に縋るしかない存在。
それはまるで、ご主人様と猫のような。
End***